『海を失った男』 シオドア・スタージョン

というわけで、シオドア・スタージョンさんの短中篇集『海を失った男』読みおわり。

海を失った男 (河出文庫)

海を失った男 (河出文庫)


いや、ほんとね、こういう小説を書く人を知っているというだけで、
僕はかなり幸せなんじゃないだろうか?
あまつさえ、それらを実際に読むことができるなんてって、真顔で思うくらいに素晴らしい。
たしかにこの人の書く小説は感傷的すぎるかもしれないし、甘いというのもじゅうぶんにわかります。
でも、おそろしく甘美で繊細、そのうえとても力強い小説を書く人だということも事実ですよね。
いや、マジで。
この本に収録されているなかでは、
SF的ガジェットは正直いっていらんのとちゃうかなーって思うものの、
「三の法則」が僕は好きですかね。ギリシャ神話的ラストが素敵。
あとは、人が成熟するっていったいどういうこと?っていうことについて書かれた「成熟」かな。
いや、どれもこれも好きなんだけどさ。けっきょくのところ。
スタージョンさん読んだことない人は、とりあえず『不思議のひと触れ』から読むと良いと思います。
表題作の「不思議のひと触れ」とラストに収録されている「孤独の円盤」は、
なにをどう考えても、犬がワンと鳴き猫がニャーと鳴いても、素晴らしい。

「生まれてこのかた、僕の人生にはなんにもなかった。
言ってる意味がわかる?つまり、なんにもだよ。
飛び級したこともなきゃ、落第したこともない。
賞をもらったこともないし、骨折ひとつしたこともない。
金持ちでもなく、食うに困るほど貧乏でもない。
1日ちゃんと働いて1日ぶんの給料をもらい、
だれにも憎まれず、それを言うならだれにも好かれない。
僕の言いたいことわかる?
そういう人間は、人生を生きていないんだよ。
つまり、本物じゃないんだ。
でもね、どこにでもいるそういう平凡な男に、
不思議のひと触れがくわわると、ほら、見てごらん。
ほんのちょっとしたことで良い。たった一度でも良い。
なにかするとか、手に入れるとか、降りかかってくるとか。
そしたらそこから先、彼の人生は死ぬまでずっと本物なんだよ」