うちのボスはご存知のとおり、

映画に関する知識において、他の追随をまったくゆるさないほど無知なことは、
このまえにも書きましたが、どうやら音楽に関しても、
その残念さを遺憾なく発揮されるようで、
ことの発端は、まずもって、ダイアナ・ロスを知らなかったことにはじまります。

「えっ、ダイアナ・ロス知らんの？」
「知らん」
「マジでかー。洋楽の人って、ほとんど知らんの？」
「んー、どうやろ」
「ビートルズのメンバー全員言える？」
「えっ。ジョン・レノンやろ」
「うん」
「ポール・マッカートニー」
「うん」
「あと、ほら、りんごさん」
「ハイヒールの？」
「ちゃうやん。おるやん。りんごさん」
「リンゴ・スターな」
「うん。それそれ」
「……」
「……」
「ええっと、あともうひとりは？」
「えっ、まだおんの？」
「まあ、いいや。じゃあ、ビーチ・ボーイズは？」
「てけてけてけてけてけの人や」
「うん。それはベンチャーズ。エリック・クラプトンは知ってる？」
「あ。知ってる。セリーヌ・ディオンも知ってるで」
「セリーヌ・ディオン知ってるんや。っていうか、なんでどや顔やねんな」
「ええやんか。エリック・クラプトンてホモの人やろ？」
「や、それはエルトン・ジョンねえさんや。あ、サイモン・アンド・ガーファンクルは？」
「このまえ大阪ドーム来てた」
「ええっと、じゃあ、ガンズ・アンド・ローゼズは？」
「知らん」
「このまえ来てたやんか。キッスは知ってる？」
「黒白の人や」
「う、うん」