今日の晩ご飯は、

鯵とかイカとかの一夜干しと、ハマチのあらの塩焼き、
あと、ご飯とおつゆだったわけなんだけど、
そんなことはどうでも良いとして、ボスが魚の皮をのこしていたので、
「あれ。皮食べんの?」
「うん。ちょっと。いままで食べたことないし」
「なんでまた。おいしいのに。冬眠前の熊は鮭の内蔵と皮しか食べへんねんで」
「ねえ、ケイちゃん。熊って冬眠するやん?
冬眠するってことはふだんは寝えへんねやんな?あれ、ふだんはどうしてんの?」
「えっ?なに?どういうこと?」
「冬眠って寝だめのことやろ?冬中寝てるわけやし」
「じゃあ、熊は春夏秋ずっと起きてて、冬になって疲れて寝ると?」
「え?ちがうの?」


という、非常に残念なことになっていたため、ボスに冬眠のなんたるかを一から説明。


「へえ、そうなんや。言われてみればそうかも」
「じゃあ、いままでボスは冬眠はなんのためにすると思ってたん?」
「え、だからぁ、冬はなんか動くのだるいし、食いだめして寝だめ。幸せやん」
「幸せちゃうやろ。でも、冬眠にはもうひとつの目的があって、
動物、あるいは種の存続のためにはすべての無駄を省いていかなあかん。それはわかる?」
「うん」
「だから、冬眠中もみんなただ寝てるだけじゃないねん」
「え?なにしてんの?」
「夢を見てる。春とか夏とか秋の夢を見てんねん。
たとえば、熊だったら、鮭を穫る夢を見て、つぎの秋に備えねんな。
いわばイメージ・トレーニングを冬のあいだにしてるわけ。
たとえば、リスも冬眠するよな?リスなんて草食だし、
そんなことせんでもぜんぜん良いやんと思いがちだけど、
生物が生きる最大の目的は種の存続やろ?すなわち、生殖。
たとえリスとはいえ、強いやつのほうが生き残る可能性が高いのは言うまでもないし、
強いやつのほうが繁殖力は高いよね?」
「うん」
「リスにしたって、イメージ・トレーニングしないやつよりは、
したやつのほうが個体として強いに決まってる。
だから、冬眠中の動物はみんな夢を見てんねん。
しかも、僕らでもそうだけど、夢には時間性を無視できるという特徴があって、
ほら、すんごい長い時間が経過するような夢を、一晩で見たりするやろ?
あれといっしょで、動物たちも冬眠中に、春夏秋を、それこそ永遠と思えるほど繰り返し体験してるねん」
「へえ、なんかロマンチックやなぁ」
「うん。この話、信じてる?」
「うん」
「ぜんぶ嘘やで」
「ええぇー。じゃあ、やっぱり熊は疲れて寝てるんやんかぁ。嘘つき」
と、食後いたくボスが僕に冷たいです。