『デス博士の島その他の物語』 ジーン・ウルフ
みんな大好き国書刊行会〈未来の文学〉セカンド・シーズン第1巻は、
ジーン・ウルフさんの『デス博士の島その他の物語 (未来の文学)』です。
いや、ほんとね、素晴らしいとしか言いようがないね。
読むのにちょっと、どころかかなり気合いがいるけれども、
そのぶんの価値はじゅうぶんにありあまるほどの本でした。
収録作品をひとつずつ紹介していきますと、
- デス博士の島その他の物語
本を読むことにしか慰めを見いだすことのできない孤独な少年のお話。
シオドア・スタージョンの「影よ、影よ、影の国」みたいなお話ではあるんだけど、
サイクルの閉じた、非常に切なく、物悲しいお話でもあります。
- アイランド博士の死
またもやスタージョンさんを例にとると、
あの、みんなででっかいピラミッド形の置物運んでいくお話
(ああ、『時間のかかる彫刻 (創元SF文庫)』に入ってる「箱」ですね。いま調べました)
のようなお話。これはほんとに素晴らしいです。この本の中でいちばん好きかな。
- 死の島の博士
最初に書いたとおり、かなり気合いを入れて注意深く読んではいたんだけど、
これにかんしては、なにか致命的な読み落しをしたような気がします。
ジーン・ウルフさんの本の芸風はね、文章中に〈物語のヒント〉がバラバラと大量に埋め込んであって、
物語のなかのその散らばった点と点とつないでいくと、
やがてそれが線となって、なんらかのかたちになるという構成で書かれているんだけど、
それはたとえば、夜空に散らばってる星から星座をつくるみたいなもんで、
どれとどれを結ぶかによってまったくちがう星座ができたりするわけです。
さらに、僕たち自身が想像力でそこには書かれていない点を補完することによって、
自分自身で線を結ばなきゃなときもあって、もちろんそれは人それぞれですから、
最終的にできるかたちはみんなちがうというようなことになってくるんですね。
それがこの人の本がむずかしいとかわかりにくいとか言われてる原因でもあり、
たまらないおもしろさでもあるわけです。
で、このお話に関しては、正直、読みおわったあとも、かたちが超あいまい。
- アメリカの七夜
さっき書いた「星座をつくろう」的構成で書かれたお話の最たるもの。
のこされた手記から真相を探るという手法で書かれたお話は、
『ケルベロス第五の首 (未来の文学)』で1回経験してるし、
まあ、無問題だろうとか思ってたら、いやいや、ごめんなさい。
でもおもっしろいよー。
- 眼閃の奇蹟
おそらくこれがいちばん読みやすいです。
ラストが僕の思ってたのとちがっててほんとに良かった。
「デス博士の島その他の物語」みたいに、ラストでサイクルが閉じちゃうお話だと思って、
途中からかなりヒヤヒヤしました。予想に反して爽やかでいて鮮やかなラストでした。
盲目の少年の一人称(これ、かなりすごいことですよね)で繰り広げられる、少年の冒険のお話。
あー、おもしろかったなー。
こうやって書いてるとまた、この本のおもしろさがよみがえってくるくらいおもしろかったです。